20代の時なにしてた?―あの人の個々ルーツ―③


ひたすらバスケに熱中した大学時代。イイと思えば頭より心と身体が動いていた。アメリカへの挑戦も、そして飲食の仕事も。

お金がたくさんあるとか肩書きがどうとか興味はないけど、自分の仕事と人生を楽しんでいる人ってかっこいい。でも、待てよ。社会人デビューの頃はどうだったのかな。飲食の仕事に携わる素敵な5人の「20代」。何者かになるための大切で愛おしいそれぞれの助走期間を赤裸々に語ってもらいました。

第3回は、元プロバスケットプレーヤーという経歴を持ち、現在『CARESS』『THE OPEN BAKER』の2店舗のオーナーである、出羽 和明さんが登場です。

出羽 和明
X-SHOTS CORPORATION 代表取締役

1976年生まれ、東京都八王子市出身。高校でバスケに目覚め、プロを目指し、1浪して専修大学夜間部入学。卒業後グローバルダイニングの『ラ・ボエム 銀座』、西麻布のイタリアンレストランを経て、バスケのため渡米。帰国後も飲食業を続けながら「いすゞ自動車」の選手として活躍。2008年に独立、お台場に『CARESS』を開業。



バスケのプロ選手を目指し まっすぐ突っ走ったあの頃

 取材場所に現れると、慣れた手つきでバスケットボールを持ち、軽やかにシュートを決める。元プロのバスケットボール選手でありながら、飲食のコンサルタント……そんな異色の経歴を持つ出羽氏は、誰からも好かれる人懐っこい笑顔とユーモア溢れる会話力の持ち主。

 バスケをこよなく愛し、飲食に熱い情熱を注いだ結果、彼は現在、お台場のイタリアンレストラン『CARESS』とベーカリーレストラン『THE OPEN BAKERY』のオーナーとして手腕を振るっている。基本的に思い立ったら、まずはやってみるというチャレンジ精神旺盛な出羽氏だが、その考え方は幼い頃からのものだったと言う。


「幼稚園のとき、勝手にひとりで線路を歩いて警察のお世話になって親が心配する……そんな子でした。落ち着きがなくて、なにかしたいと思ったら即行動、みたいな(笑)。その部分は今でも全然変わっていませんね」


 小学校では野球、中学校ではテニス、そして高校でその後の運命を左右するバスケをはじめた出羽氏。でも、そのきっかけはいたって単純で……

「仲のいい奴らがバスケ部だったから(笑)。本当に軽い動機です。でも、基礎練習をもくもくとやっていたら楽しくなってきて、背の小さい僕が大きい人をかわしてゴールを決めるのってかっこいいじゃん!ってなって、一生懸命打ち込んでいましたね」

↑プロを引退して最近まではまったくバスケをしていなかったと話す出羽氏。しかし、ブランクを全く感じさせないキレのある動きで次々とシュートを決めていく。


 

 彼のバスケの才能は周りが驚くほどに開花し、高2で50人中5人というスタメンに選ばれるほどに。そして出羽氏は、バスケの強豪校である専修大学の夜間部に1浪して入学。あこがれの一部リーグの門をたたくが、しかし……

「一部リーグの練習は夜なんです。でも、僕は夜学だから練習できない(笑)。だから1年間必死に頑張って昼の部へ見事転部して、一部リーグに入るんですが、人間関係がいろいろあって気まづくなり、半年で部活を辞めて、夜学のバスケリーグに戻ってしまったんです」

 

その後、夜学の一部リーグの関東大会で優勝。どうしてもバスケのプロの道に進みたいと考えた出羽氏は卒業後、これまた軽い気持ちで『ラ・ボエム 銀座』でアルバイトをはじめる。

「銀座か六本木のレストランで働けば、バスケのトップチームの関係者と知り合いになれるんじゃないかと思って(笑)。あとはお金を貯めて、27歳までにバスケの本場である、アメリカに行けたら……と考えていました」


 そして『ラ・ボエム 銀座』で当時カリスマ店長と呼ばれていた古里氏(現:SEED-TANK社長)と出会い、出羽氏は彼の独立するお店について行く。

↑26歳当時、麻布十番にあった古里氏の新店舗で副店長として従事。飲食の仕事をこなしながら、夜な夜なバスケの練習も欠かさなかった。実は冒頭の写真の撮影地はその頃練習をしていた思い出の公園。




意気揚々とアメリカへ進出。2足のワラジをはく20代

「それまではぶっちゃけ、飲食業界のことをあまりよくは思っていなかったんです。どうせお金のために働いてるだけなんでしょ?って……。でも実際は全く違った。みんなプライドを持って仕事をしていて、世間を知らない自分が恥ずかしいと思い、反省しました」

 

『ラ・ボエム 銀座』と古里氏の立ち上げたお店で働くことにより、出羽氏は飲食の仕事のすごさを思い知る。だけどやはりアメリカに行く夢を捨てきれなかった彼は、ついに渡米する。

「ベニスビーチがストリートバスケで有名だからという知識だけでロサンゼルスに行きました。最初は門前払いだったけど、一緒にバスケをして活躍するうちにどんどん認めてくれて、カレッジに行くことを勧められました。だからUCLAを見に行ったんですが、現実的にビザもなければ、お金もない(笑)。一度日本に戻って、古里さんのお店でまたお世話になってから、次の年にサマーリーグを見に行きました。出場ではなく、見学。やはりアメリカの壁は高すぎました(笑)」


 そして日本に戻った出羽氏は、古里氏の新店舗で副店長として社員になる。だけどもちろん、プロのバスケ選手への道はあきらめていなかった。すると、草バスケで当時、バスケットボール日本リーグ日本一の実業団『いすゞ自動車』のメンバーと知り合い、トライアウトへの参加を勧められ、見事彼は合格を果たす。

「その年の12月にバイクで事故って、右手を複雑骨折してしまったために1年は棒にふるんですが、27歳で『いすゞ自動車』のバスケットチームに入れることになりました。本当にうれしかった」


 この時点で、副店長の座はおりていた出羽氏だが、飲食のコンサルの話が何件か入って来るようになり、実質、飲食とバスケの2足のワラジをはくことになる。

↑強豪の『いすゞ自動車』バスケットボールチームで選手として活躍。その後『いすゞ自動車』バスケットボールチーム廃部により、クラブチームとして新たなスポンサーのもとバスケットを継続。 


そして、30歳で引退を決意。次に彼がしたことは……。

「自分のお店をやりたい」


 そして、コンサルタントで知り合った友人や高校の後輩と一緒にお台場に『CARESS』をオープンする。

↑出羽氏がオーナーを勤める東京お台場のレストラン『CARESS(カレス)』。海からの風が気持良い開放的なテラス席。現在でも自ら率先して現場に立ち、スタッフと共に仕事を楽しんでいる。



飲食業界で働くことの喜び そして、未来につなぐ思い

「お客様へのおもてなしをする気持ちや厨房へのこだわりがツーカーでわかる仲間だったから、無駄に自信だけはありました(笑)。ただ、売り上げはまぁまぁあったけど、支払いのことなど、とにかく知らないことだらけだったのが大変で、毎日が勉強でしたね」


 そして、出羽氏の店はお台場の人気店として名を馳せるようになる。店をオープンしてから約10年。彼が今、思うこととは一体……。

「お客様に「ありがとう」とか「おいしかった」と声をかけていただくと、お店を立ち上げて良かったと心底思います。何年か前にベーカリーレストランもオープンしたんですが、それは自分がサンドイッチをやりたかったから(笑)。大変なこともたくさんあるけど、飲食の仕事って、誰にでもできるような仕事に見えて、誰にでもできない仕事だから誇りを持ってやっています」


 では、20代を振り返ってみると、どんなことを思うのか?

「とにかくよく動いてたし、焦ってばかりいました(笑)。でも、早い段階で飲食の仕事に出会えたことは、僕にとって宝です。飲食で働くといろんな人に出会い、見聞を広めることができるのですごく勉強になるし、人間力が身につくんです。尊敬する人、尊敬しちゃいけない人を見極める力がつくと、その後の人生、どんな業界に行っても自分のあるべき姿が分かると思いますね」


 そして、出羽氏にとっての人生のターニングポイントを聞いてみると、それはいくつかあった。

「ひとつは大学の昼の一部リーグをやめたとき。ずっとそこを目指してたのに、人間関係で簡単に辞めてしまった。でも、だからこそ今があると思う。ふたつめは、グローバルダイニングでの古里氏との出会い。飲食の魅力を知ることができたし、たくさん助けてもらいました。最後は『いすゞ自動車』のバスケ部へ選手登録できたこと。数え上げたらきりがないけど、バスケも飲食も人を喜ばすことに違いはないんです。僕の場合、争いが好きじゃなくて、平和主義だからこそ、飲食の方がより向いているのかもしれませんね」


 最後に、彼が考える今後の展望、そして若者へのメッセージを聞いてみた。

「20代は突っ走って、30代で飲食の基盤をつくったんですが、これから先の10年は、飲食店がどんどん淘汰されて、必要な店だけが残る時代になると思います。だからこそ、世の中に必要とされて残るお店を一緒にいるスタッフみんなとつくっていきたいし、それが形にできる会社でありたいですね。40歳になって、またシニアリーグでバスケをはじめたんですが、意外と動けるんで、また無駄な自信が湧いてきてます(笑)。でも、この無駄な自信は持っていて損はありません。今の若い人たちにも自信と誇りを持って、飲食の世界に飛び込んで欲しいです」



40代の今なにしてる?

現在は『CARESS』『THE OPEN BAKER』の2店舗を展開。自らお店に立ちながらも、バスケットボールのシニアリーグにも参加し、飲食・バスケット共にまだまだ挑戦は続いている。

caress

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ゆりかもめお台場海浜公園駅 徒歩2分

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