10年後の飲食業界を語ろう ~vol.4 「トレンド」株式会社 ひめこカンパニー 代表取締役 山下智子氏

エフラボ2020では、大胆にも10年後の未来を予想!

「料理」「テクノロジー」「カルチャー」「トレンド」「サービス」「都市開発」「グローバル」「人事」「外交」、各ジャンルで活躍するスペシャリストに登場いただき、この9つの分野からの視点で、10年後の飲食業界を見つめてみます。

食という仕事に興味がある方、どのような分野で働きたいか迷っている方にはぜひ、彼らのインタビューを読むことをお勧めします。きっと飲食業界の将来性とポテンシャルの高さを感じてもらえるはずですよ。



人と人を結ぶ食はすべての中心になる。
可能性はどこまでも広がっている。

株式会社 ひめこカンパニー 代表取締役 山下智子さん



増税を機に中食ニーズ拡大
次なるトレンドはスパイス


 コンビニのお弁当やお惣菜の開発から、居酒屋の新業態のプロデュース、スーパーマーケットの販売促進企画まで、山下智子氏は食に関わるあらゆるジャンルを手がけてきた。のみならず、食のトレンド情報を毎週発信し、業界を牽引し続けている。まずは、最新のフードビジネスの動向をうかがった。


「先日、安倍首相がついに消費税率の引き上げを表明しましたよね。軽減税率の導入が始まると、現場の混乱が予想されます。ファストフードではレジの複数税率対応を進めていますが、コンビニやスーパーのイートインはどうするのか。いろいろな問題が山積していますが、一方で飲食店が軽減税率対象となる中食事業に参入するケースはますます増えてくるでしょう。中食に対応する動きを急がなければなりません。戦略も立てずに、軽い気持ちでシフトしようとすると、ことごとく失敗するのが目に見えています」



 外食も中食も、商品のヒットのカギを握っているのは家計の財布を預かる主婦層。山下氏によると、彼女たちの心をつかむには「後ろめたさの払拭」が何より有効なのだとか。小気味よいマシンガントークが炸裂する。


「主婦が中食を利用する第一の理由は『私がつくると材料がたくさん要って、無駄になるから』というもの。もう1つは、『私にはこんなの絶対つくれないから』。そして、最後の言い訳は『たまの晴れの日なんだから』。どれも、外食への価値観に通じますよね。可処分所得の高い共働きの夫婦、いわゆるパワーカップルが外食する理由は『せっかくの週末、家族一緒に楽しく過ごせれば、子どもが喜ぶじゃない』となる。本当は自分の行きたいところを選んでいるだけなんですけどね(笑)。自分で料理するよりお金はかかるし、もったいないかもしれないけれど、これは意味のあることなんだと、理由づけをしてあげることが大切。たとえば、中食の場合ならテーブルクロスをサービスして『こんなににぎやかな楽しい食卓になりますよ』という提案をするなど、付加価値を持たせれば受け入れられやすくなるでしょう



 また、食のヘルシー志向は一段と進化を続けている。東京オリンピックを控えて、インバウンド市場が拡大を続けるなか、ベジタリアンやビーガン対策は必ず押さえておきたいところ。さらに「次はスパイスが来る!」と、山下氏は新たなブームの到来を予測する。


「スパイスといっても激辛とか、味を変えるものとしての役割ではなく、効果効能にフォーカスしたもの。“スパイスサプリメント”と呼ばれ、スーパーフードと同じような扱いになります。まだまだモノが売れないなか、大規模な商品開発はしづらいですが、スパイスをいくつかプラスするくらいなら大して費用もかかりません。外食でも、スパイスの効能をもっとアピールするといいでしょう。ハーブや野菜をたっぷりと使うより、コストをかけずにヘルシー感を演出できます。おしゃれでリーズナブルに、まるでスーパーフードが使われているような印象を与えることができるんです」



人間にしかできない仕事
サービスへの評価が高まる


 では、10年後の飲食業界にはどのような未来が広がっているのだろうか。業界の垣根が崩れ、新たな競争がいよいよ本格化すると、山下氏は想定している。


「今でもメルセデス・ベンツが六本木でラーメン屋をやったり、アパレルショップが店の一角にシャンパンバーを開いて、話題になっていますよね。この流れはいろいろな業界に広がり、フードビジネスへの参入が相次ぐでしょう。すると、本業以上にセンスのいいアパレルの飲食店のほうが人気になる、なんて現象も起こってくるはずです」


 ライバルは同業の店だけに限らない。そういう状況が一般的になると当然のように、そこで必要とされる人材像も変化してくるだろう。


「ただ、食だけを提供していればいいという時代は終わり。カルチャーや最新のトレンドを自分から発信できるようになっていかなければ。それには、いろいろなものを見聞きしてやってみる、体験することです。若い人たちにはとくに、もっと遊んでもらいたいと思います。飲食を仕事にしたいという人や調理専門学校出身者のよくない点は、それだけしか知らないところ。お客様のほうがよっぽど遊び、よっぽど勉強もしています。おしゃれをしたり、好きな音楽を聴いたり、映画にも本にもたくさん触れましょう。自分が楽しみを知らなければ、人に楽しさを与えられません。楽しく働ける人のもとに、楽しい人たちは集まってきます。栄養補給のためだけの食事でいいという人は、この業界に必要ありません。何よりもまず、自分の世界をどんどん広げることです。お金は後からついてくるものなので、若いうちは自己投資だと考えて、世間でおもしろいと評判になっていることや流行りのものには、とにかくチャレンジしてみてください



 一方、飲食業界にもテクノロジーの波は確実に押し寄せてきている。慢性的な人手不足解消の一手として、アメリカではすでに店員が1人もいないキャッシュレスの無人レストランが登場している。業務効率化を図るためのAI化は、ますます進んでいくにちがいない。

 しかし、テクノロジーが普及・浸透したAI社会にこそ、人間にしかできない仕事の重要性が高まってくると、山下氏は指摘する。


「良いサービスをすれば、必ず良い客がついてきます。人が集まり、売上を向上させることができます。今後は、料理人以上にサービスマンが評価され、稼げる世の中になっていくでしょう。これまでの飲食店に一番足りていなかったものこそが、サービスです。サービスにおいては、日本は未だに三流ですよね。フランスのようにサービスマンに勲章が授けられたり、社会的地位が高くないので、自分の仕事に誇りを持ってサービスに従事している人も少ない。周りに模範となる人がほとんどいないので、無理のないことなのかもしれません。サービスの行き届いた一流のレストランで、食事をした経験がないという人も多いのではないでしょうか」



 専門学校で調理技術などは習得できても、サービスを本格的に学べる機会はあまりない。どうすれば、ワンランク上の接客スキルを身につけられるのだろうか。


「ちゃんとしたレストランでごはんを食べて、ちゃんとしたサービスを受けてもらいたいですね。そのうえで、良いサービスとはなんだろうと、自分なりに考えることが大切。もともと、飲食を仕事にしようと考えている人たちはやさしくて思いやりがあるんですよ。みんなのために役立ちたいという想いが人一倍強い。良い先輩が引っ張って指導してあげれば、必ずできるようになるはず。まずは、自分もこんなサービスができるようになりたいと、あこがれる対象を見つけましょう。結局のところ、サービスは技術ではなく心。心の豊かさがあれば、良いサービスができます。自分の心を養うことが、一流のサービスを身につけることにつながっていくでしょう



 10年後の近未来--人々のニーズはますます多様化し、新しいビジネスモデルや顧客サービスを模索して、異業種への参入を仕掛ける企業や人の動きは一層活発になっていくことだろう。その中心に位置するのが食であると、山下氏は断言。飲食の道を志す若者たちの活躍に、大いに期待を寄せている。


「日本人はよく保守的だといわれますが、食に関しては誰もがもっと楽しみたいという能動的な気持ちを備え持っています。伸びしろもまだまだあるし、可能性はどこまでも広がっています。あらゆる業界が食に注目して、こぞって参入しようとしているのも、食が一番人を惹きつけるから。誰かと仲良くなるときは、『メシでも食べに行くか』って自然になりますよね。食には人と人を結びつけ、すべての中心になる力があります。そんな大きな力のある食に関する知識や技術を持ち、使いこなせる人たちはものすごくポテンシャルの高い人材といえるでしょう。ただし、くれぐれも『自分にはそれしかできません』という人にはならないでいただきたいですね」



Tomoko Yamashita

女子栄養大学栄養学部卒。1988年、食業界のシンクタンク、株式会社ひめこカンパニーを設立、代表取締役に就任。フードビジネスマルチプロデューサーとして食品業界・流通業界全般に幅広く活動。外食、中食、内食を網羅するビジネス範囲の広さは業界屈指。食業界の今がわかる「食のトレンド情報」を毎週配信中。女子栄養大学客員教授。

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