エフラボ2020では、大胆にも10年後の未来を予想!
「料理」「テクノロジー」「カルチャー」「トレンド」「サービス」「都市開発」「グローバル」「人事」「外交」、各ジャンルで活躍するスペシャリストに登場いただき、この9つの分野からの視点で、10年後の飲食業界を見つめてみます。
食という仕事に興味がある方、どのような分野で働きたいか迷っている方にはぜひ、彼らのインタビューを読むことをお勧めします。きっと飲食業界の将来性とポテンシャルの高さを感じてもらえるはずですよ。
サービスの力が飲食店の成否を分ける
”繁盛店”ではなく”繁栄店”を作りたい
㈱プレジャーカンパニー サービスマネージャー 遠山啓之氏
感覚という概念が強いサービスを
理論で〝見える化〟に挑戦!
飲食業界ではサービスのプロフェッショナルとして幅広く知られる遠山 啓之氏。約 18 年にわたり飲食業界でサービスに携わり、現在では企業の枠を飛び越え、様々なセミナーや講演会を行い、サービスの重要性や教育などを広く伝える活動にも注力している。
これまで様々な不振店の建て直しや新店のスタートアップを成功させてきた彼は、サービスに対し並々ならぬ情熱を燃やす 、自他ともに認める「サービスおたく」だ。
そんな遠山氏に、サービスの移り変わりや、これからのサービスに求められることを聞いた。
「サービスには感覚が重要なのですがそれに頼りすぎている人が多い。 でも、それでは限界があるんです。 スタッフにサービスを教える際、私は『こういう場合はどうすればいいか』を、判断基準と行動例を 具体的に説明するんです」と遠山氏。
形のないものだからこそ 個人の(入れる) 感覚に頼りがちなサービスを、徹底的に言葉に言葉にし 、ぼんやりとした〝感覚〟ではなく、理論で「見える化」をする。それこそが遠山氏が重視するところだという。
「よく、『サービスに答えはない』という意見もありますが、私はあると思います。サービスを行う最大の目的は → 本質であり答えとは 、目の前のお客様が笑顔になってくれること。それに至るまでのプロセスがたくさんあるだけなのです。それを指して「答えはない」と感じてしまうのだと思います。プロセスをきちんと言語化してヒントにしてもらうことで 、若い人にもしっかりと伝わります。」
また、「一昔前までは、感覚に頼ったサービスでも成り立っていた」とも遠山氏は言う。
その理由をこう分析する。
「一言で言うと、時代による家庭環境の変化です。まず、サービスに必要なのは、相手に軸足を置き、相手の立場に立って行動をすること。昔は大家族が多かった。子どもは、親だけでなく祖父母や近所の人たちに囲まれ、その人たちから『人に親切にしなさい』などの道徳的なことを教わる環境にあった。そのため、『相手に軸足を置く』ということを感覚的に体得していったんです。しかし時代が流れ、そういった環境はなくなってきました。だから今の若い人には”相手”という軸が通じづらくなっているのです 」
そこで遠山氏が力を入れているのが、サービスの「見える化」による教育だ。昔の家庭環境に似た職場環境こそ、これからの飲食業界での成否の分かれ目になるという。
これからの飲食業界の成否は
「サービス力」が最も大切なピース
「一般的に飲食業界 は参入しやすい業種だと言われています。さらに現在、海外のお客様の増加や、それに伴うインバウンド効果をはじめ、SNS などでお店の情報が簡単に手に入るような一見簡単な業界に写りがちです。 そこで 、他店との差別化や集客、お客様の喜びや感動に必要な重要なピースとなるのがサービス力です。
今後、飲食業界では今以上にサービス力が重要となる時代になります。モノは真似しやすい。 店舗デザインや料理など、今流行っているものを真似すれば、ひとまずお店のかたちは完成してしまう。でも、サービス力 は違います。無形のものなので、簡単には真似できない。モノはお金をかければ作ることができますが、サービス力を手に入れるには、理論に基づくしっかりとした教育と積み重ね が必要です。かたちだけを真似たお店は、一時は流行るかもしれませんが、その後が続きません。私は〝繁盛店〟ではなく〝繁栄店〟を作りたい。そんな長く続くお店には、構築されたサービスの教育が不可欠なんです」
飲食業界のサービスは高度な仕事として、
今後注目を集める
「飲食業界 におけるサービスというのは、実は非常に高度な技術。これは業界に限らず社会全般に通ずる力として、今後注目を集めるはずと私は考えています。飲食店では、いくつもの事柄を瞬時に判断をすることが求められます。たとえばピークタイムでは、入店してきたお客様を席に案内してメニューの説明をしたり、できあがった料理を冷めないうちに運んだり、レジで会計をしたり...... 。その間もお客様に『すみません』と呼ばれ、予想外の要望を求められるかもしれません。これらの事柄の優先度を一瞬で判断し、無駄なく動く必要がある。実は私たちは 、短時間にものすごい量の判断をして、その都度PDCA を回しているのです」
飲食業界 は料理とサービスといった、〝製造と販売〟が一体となっているビジネスであり、一連の流れにはビジネスのすべてが詰まっているといっても過言ではない。この意味で 店長の仕事は他業種だったら社長に匹敵する、と遠山氏は分析する。
以前、遠山氏のもとで働いていたアルバイトの学生は、在学中に起業したという。彼が仕事を通じてこの高度な「本質」を理解したことが、会社を経営する上で役立っているのは間違いない。飲食業を軸として、他業種にも通用する能力をも身に着けることができる、可能性に満ちた業種といえるだろう。
10 年後の明るい未来へ向けて、
遠山氏のプロジェクトは進行中
このように可能性に満ちた飲食業界。だからこそ、サービス・教育という面からこの業界をさらに進化させたいと奮闘する遠山氏。
その一環として今後チャレンジしたいと考えているのが、サービス・教育に関する塾、いわば「遠山塾」の主催だ。サービスの理論や、教育の考え方・伝え方を、自らのみに留めるのではなく、会社の枠を超えて向上したい人たちで集まり、共有していくのが主旨である。学んだことは各々の会社で実施し、業績を上げ、さらにサービス力を底上げするとにより、お客様に喜んでいただける…そんな好循環をよぶ構想である。
また、在学中から社会の仕組みを知ってもらうために学生向けのワークショップを開催したり、生産者と お客様のつながりを作るプラットフォームとしての飲食店に進化するべく、日々奮闘している。
「日本のサービスレベルを向上させ、海外に向けても、『おもてなしの見える化』を発信していく 」と遠山氏のサービスへの想いはさらに大きく、そして確実に広がっている。10 年後の飲食業界のサービスが、遠山氏の手によってどのように変わっていくのかが楽しみだ。
HIROYUKI TOYAMA
1973年、福島県生まれ。㈱グローバルダイニングを経て㈱プレジャーカンパニーに入社。主に社内のサービス・教育に関わる役割を担う。その接客力には定評があり、自他ともに認める「サービスおたく」。接客力向上セミナーやビジネスマナーなどの講師も務めるほか、サービスに関する本も執筆中。
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