10年後の飲食業界を語ろう ~vol.7 「グローバル」Bricny Europe GmbH 代表 佐伯春彦氏

エフラボ2020では、大胆にも10年後の未来を予想!

「料理」「テクノロジー」「カルチャー」「トレンド」「サービス」「都市開発」「グローバル」「人事」「外交」、各ジャンルで活躍するスペシャリストに登場いただき、この9つの分野からの視点で、10年後の飲食業界を見つめてみます。

食という仕事に興味がある方、どのような分野で働きたいか迷っている方にはぜひ、彼らのインタビューを読むことをお勧めします。きっと飲食業界の将来性とポテンシャルの高さを感じてもらえるはずですよ。



一回きりの人生はチャレンジあるのみ!
その行動力が十年後の未来につながる

Bricny Europe GmbH 代表 佐伯春彦氏

飲食の仕事を海外でする!
そこに迷いはなかった…


「まさか自分がこんなにも長く日本を離れて、海外で生活することになるなんて思ってもいませんでした。人生、何が起こるか分からないものです」


と笑顔で語るのは、現在、ドイツでラーメン業態を中心とした、人気の日本食店を経営する佐伯 春彦氏。東京の阿佐ヶ谷で生まれた佐伯氏は、小さいころから食に対する好奇心が旺盛で、商店街にある飲食店のメニューを片っ端から頭にいれていた。



「学生時代もアルバイトと言えば、飲食関係ばかり。大検をとったあとも、結局はアルバイトに明け暮れていました。だから、26歳のときに知り合いに「ヨーロッパの焼き鳥専門店で働いてみないか?」と言われたときも、あまり迷わなかったです」



 一度、家族の都合でアメリカに住んでいたこともあり、海外に対しての不安感が少なかった佐伯氏は、こうしてオランダのアムステルダムに開店した焼き鳥専門店に就職。そこでまず感じたことは……。



「基本的に従業員は現地の人間ばかりだったので、最初は言葉の面で苦労しました。そして驚いたのは、お客様とお店があまりに対等であること。日本の場合、お客様は神様という考えが一般的にあると思いますが、向こうの場合、ともするとお店の人間のほうがえらかったりするところもあって(笑)。どちらが良くてどちらが悪いというわけではないんですが、その差にビックリしました。あまりにフレンドリーな接客に「え、いいの?」と。ちなみにこれは今でも思っていますけどね、やはり僕は日本人なので」


対等な関係性は、お店とお客様の間だけではなく、上司と部下の間にもあったという。



「対等とまでは言いませんが、そもそも上司だろうがなんだろうがファーストネームで呼ぶのは当たり前ですし、何か思うことがあれば完全に言い合っています。新人だってベテラン上司に本音でぶつかっていきますから(笑)。あの光景は日本の組織の中で見ることはできないと思います」

 オランダからドイツの支店に移動し、そのままお店を引き継ぐ形で2000年に独立した佐伯氏は今、ドイツのデュッセルドルフやベルリン、ミュンヘンなどの各都市でラーメン店をはじめとする、日本食が食べられる飲食店を手がけている。




ドイツで飲食店を経営して感じる
様々な文化の違い


海外で日本食店を展開する日本人オーナーとなった佐伯氏は、年に2~3回、日本に帰国して東京と東京以外の都市の飲食店を視察している。そこで、ドイツと日本の接客の差を聞いてみると…。


「日本の接客力は本当にレベルが高い。よく教育されているというのもひとつの理由だとは思いますが、教育を受けなくても日本人にはおもてなしの心があるんでしょうね。それってすばらしいことだと思います。僕らは海外で日本食のお店をやってますけど、料理の味だけじゃなく、そういったおもてなしの心も海外の人に知ってもらいたいと常に思っています」



 8割が日本人スタッフというBrickny Europe。スタッフを教育する上でどんなことに気をつけているのか。そこには佐伯氏ならではのこだわりがある。


「日本人の場合は、やはりおもてなしの心を大切にしてもらいたいので、へりくだる必要はありませんが、笑顔でもてなすようにと教えています。どうしても言葉の壁があるので、お客様を冗談で笑わすことはできないけれど、笑顔は世界共通ですし、おいしく食べてくださいねという気持ちは絶対に通じるんです。笑顔と気持ちを伝える努力は欠かせません



では2割を占める海外のスタッフに対してはというと。言葉も文化も違うからこそ、教育にも気をつけなくてはいけないことがある。


「本当にいろんな国の人がいるので、ある程度のルールを決めるようにしています。同じヨーロッパでもドイツ人はルールを守るタイプ、また、ラテン系のスペイン人はとにかく陽気で明るい。アジアの人もいるし、マナーの悪い国の人もいる。そういう国の特性を理解した上で育てていく努力をしています。文化の差はそこらへんに転がっていますから(笑)



 文化の差についてさらに掘り下げていくと……。ドイツで20年以上暮らす佐伯氏にとって、それは至るところにあった。もちろん、お客様側にも。


「いろいろな宗教の方がいるというのは当たり前で、自分の個性というものをみんなが持っていて、それを譲らない。だからシェアという文化はまずないんです。日本人のグループでピザ屋に行けば、何種類かのピザをシェアしますよね? でも向こうは違う。4人いたら4人が全員サラミピザを頼むんです(笑)。お会計も別々ですし、自分は自分、人は人という考えが強いんだと思います」



 だからこそ、佐伯氏は日本の文化をドイツで広められたら……という思いが強い。


「うちの会社は居酒屋もやっているので、シェアの文化は是非伝えたいと思ってはいるんですけど、ドイツは古いものを尊敬し、新しいものに飛びつきづらいので、なかなか難しいところですね。ただ、シェアは別としても、やはり僕は食を通して日本の文化をなるべく正して伝えたいと思っています。日本の料理ってこんなにおいしいんだ! それをきっかけに日本を好きになってもらって、日本人の良さも感じてもらいたいんです」




海外で働く面白さについて
そして十年後について思うこと


「海外に出たことで、世界地図が小さく感じるようになった」



 と話す佐伯氏。その意味は……。


「これは若い方に伝えたいことでもあるんですけど、海外に行くと経験値がとにかく広がる。いろんな人種の人たちと関わるので、違った文化に触れることもあれば、差別を目の当たりにするときもある。でも、それらを知ることに意義があるんです。日本にいたときには知り得なかったことを知ることで、それまでは世界地図でヨーロッパって遠い大陸と思っていただけなのに、とても近くに感じる。友人知人も世界各国に増えますし、人間として大きく成長できると思います」



 だからこそ、佐伯氏はもう一度人生をやり直せるとしても海外に絶対にでると断言する。


「日本で働く経験も大事ですけど、1回きりの人生ですから。この言葉を僕はよく使うんです。自分自身を励ますときも、何かに迷ったときも、1回きりの人生なんだからやってみよう……って。何かにチャレンジするということは、リスクもあるけれど、それ以上に得るものは大きい。それにこれからどんどんグローバルな時代になっていきますからね」



 そして話の内容は、本題とも言える10年後の飲食業界について。


「飲食業界自体の魅力は10年前も今も10年後も変わらないと思います。それはとてもシンプルで、お客様の喜びを直接感じられること。これに尽きます。そして、海外で働く僕の立場から言わせてもらうと、海外で食べる日本食のレベルはどんどん上がっていくと思います。今でさえ10年前と比べると質も味も断然良くなっていますから。ヨーロッパは日本ほど食にトレンドがなくて、新しいものが次々にヒットするわけではないんですが、求められる日本食のレベルが上がる以上、会社としても努力しないわけにはいきません。それに働く人間も10年後には、今以上に外国人雇用が広がると思うので、労働環境を整備しないといい人が育たない。それもひとつの課題だと思います」



では、佐伯氏は日本の飲食業界をどう見ているのか。未来を見据えるためには、海外での経験が必ず役に立つ……と、話はこう続く。


「日本は今以上にグローバルな時代になっていくと思います。海外のお客様が増えるのはもちろん、企業の中での外国人雇用の働きも広がっていくでしょうし。それを考えれば、海外に1度でるという経験は必ずプラスに働くと思います。だから、これから飲食の世界に飛び込みたいという若者には、チャレンジする心を忘れないで欲しい」



仕事は楽しくやるのがいちばん! 新しいことを知れる海外は本当に楽しい! と最後まで笑顔をたやさない佐伯氏が考える10年後の飲食業界は、日本人の誇りを持ちながら、世界で活躍する若者が増えていく世界だ。



HARUHIKO SAEKI

1969年生まれ、東京都出身。高校中退後、飲食店でアルバイトを続け、19歳で家族の事情により渡米。1年半後に帰国し、大検をとる。26歳のとき、オランダにある焼き鳥専門店で働くために渡欧。その後2001年1月、ドイツのデュッセルドルフにBrickny Europeを設立。現在、ドイツを中心に日本食店をいくつも展開している。

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