10年後の飲食業界を語ろう ~vol.9「外交」外務省 西永 知史氏

エフラボ2020では、大胆にも10年後の未来を予想!

「料理」「テクノロジー」「カルチャー」「トレンド」「サービス」「都市開発」「グローバル」「人事」「外交」、各ジャンルで活躍するスペシャリストに登場いただき、この9つの分野からの視点で、10年後の飲食業界を見つめてみます。

食という仕事に興味がある方、どのような分野で働きたいか迷っている方にはぜひ、彼らのインタビューを読むことをお勧めします。きっと飲食業界の将来性とポテンシャルの高さを感じてもらえるはずですよ。


世界との国際交流に料理を通じて貢献する
それこそが、公邸料理人としての醍醐味

外務省 大臣官房 在外公使館課長 西永 知史氏

公邸料理人=味の外交官
その仕事内容について


 飲食業界に興味がある者ならば、一度は耳にしたことがあるであろう、公邸料理人という仕事。でもどうすればその職に就けるのか、そして実際の仕事内容はどんなものなのか……それについて詳しく知る機会は少ない。そこで、外務省に在籍し、自身も3つの国の大使館で勤めていた経験のある西永氏に話を聞いてみると。



「公邸料理人は外交チームのスタッフのひとりと考えています。日本の大使館や総領事館は世界に220ヶ所以上に設置されていますが、そこで、公館長をはじめとする外交チームが、相手国の要人や他の国々の外交官たちと人脈を形成したり、情報収集をしたり、また日本の企業の紹介や日本の文化を発信するなどの活動を行なっているんです。その外交活動を行う上で、最も有益なツールと言えるのが公邸会食で、その料理をつくるのが、公邸料理人です。」




 外交を側面から支える存在として、別名、味の外交官とも呼ばれる公邸料理人だが、現在、その数は約200人。外交に関係してくるのだから、ハードルもさぞや高いのでは……と思いきや、その条件は意外と足を踏み入れやすいものだった。




調理師としての経験が5年以上ある方を採用しています。調理師免許を持っていることが望ましいのですが、絶対ではありません。料理人は、我々が育成するわけではないので、ある程度の技術と腕を持っていないと活躍は難しくなりますからね。また、公邸にお呼びする方は海外の国会議員や大臣、場合によっては大統領ということもあるので、それらの方々におもてなしするうえで恥ずかしくない料理がつくれるというのは大前提になります。あとは、知的好奇心、コミュニケーション能力、ガッツがあれば言うことはありません。ちなみに公邸料理人は国家公務員ではなく、国際交流サービス協会の紹介のもと、公館長との間に雇用契約を結びます」




 さらに、料理人は公邸に居室が用意され、一定の保護やサポートを受けることもでき、それなりのステイタスも与えられる。そして、日本の公邸料理人ならではの仕事内容について西永氏は話を続ける。




和食の文化と技術は今、
世界中の注目を集めている


「仕事内容は、会食で料理をつくることがメインですが、レセプションもあります。通常の会食では、前菜からデザートまでのコース料理を10名〜20名分つくるのですが、レセプションになると200名以上の料理をつくることになります。そしてそれらの料理は基本ひとりで行います。また、今、世界中で日本人のつくる料理が注目を浴びていて、料理人の方に興味があれば、パブリックな形で日本食に関するオープンイベントを行う場合もあります。日本人ならではの、きめ細やかな作業やディスプレイを実演するもので、和食文化を発信する担い手としても活動できるんです」




 外交チームの一員として外交活動を支えるだけでなく、表に出て日本の料理の良さを世界に伝える。これも公邸料理人のひとつの役割だ。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されてからは、さらに和食への注目が集まっている。それに伴い、日本の料理人の認知度も高まって、それは各国の大使館の間でも話題になるほど。




「日本大使館の会食に行けば、おいしい料理が食べられるとどの国でも思っていただけているようで、日本大使が会食に誘って断られる例はほとんどないんです。だからこそ、日本の料理人が作る料理は我々の最大の武器になり得ます。特に評判がいいのは、その国の食材を和食にアレンジした料理で、私がエジプト大使館にいたとき、公邸料理人の方が会食の最後にモロヘイヤをお茶漬けにしてお出ししたら、とても喜んでもらえましたね。まさにアイデア力なので、料理人としての腕が試される場だと思います」




 日本の料理人に対する世界の評価は、これだけにはとどまらない。




「EUの外務大臣のモゲリーニさんがウクライナに来たとき、本来ならばウクライナのEU代表部の料理人が食事を用意するんですけど、彼女を満足させる料理がつくれないかもしれないということで、日本の公邸料理人が呼ばれたんです。他の大使館にわざわざでむいて料理をつくるなんてすごいことですよね。それぐらい、どこの国に行っても日本の料理人は評判になっているんです。そもそも、本国から料理人を連れて行く国自体少ないんですが、日本は外交のツールとして公邸会食を重要視しているからこそ、そこに予算をかけることもおしまないんです」




 外交は人と人とのやりとりで、そこに美味しい料理があると話に花が咲き、相手国との関係が強化されることもある。それがさらに、日本の国益に跳ね返ってくる。つまり、公邸料理人は自分のつくる料理で国と国との関係に貢献できるだけでなく、日本をよりよくするために働けるのである。



未来の日本、そして世界でも重要視される
日本の料理人


 和食や日本の料理人が世界で認められているこの流れは、これから先の10年後、さらに大きくなるであろうと西永氏は予想する。




「過去の10年と比べても、日本の料理に対する世界の注目は高まっています。そして、公邸料理人の役割もまた、ますます大きくなると私は思います。その理由は、今日本のおかれている国際環境はとても厳しいので、外交の重要性がさらに高まると考えられるからです。その外交をスムーズに行うためにも、公邸会食を支える公邸料理人の存在がとても大きい。だからこそ、料理人の待遇改善もどんどん行われていくと思います」



 そして最後に、これから飲食業界を目指す若者たちへのメッセージをもらった。




日本の公邸料理人は、どこの国でもオンリーワンの存在で、世界を知ることで普通の料理人とは違った経験を積むことができます。そして、海外でこれだけ和食の人気が高まる中、将来を見据えて、最終的に海外で独立したいと考えている人がいるならば、その最初のステップとしても公邸料理人は最適だと私は思います。いきなり海外のレストランで働くといろんな壁にぶつかると思いますが、公邸料理人は大使館のスタッフの一員としてさまざまなサポートを受けた上で、料理の勉強ができるんです。この経験は、いずれ海外に進出する人にとって悪くない選択ですよね。そういう夢を持つ方も我々は歓迎しています!」




 外務省では2018年10月より「外務省×公邸料理人」のアカウントで、ツイッターフェイスブックの発信も行なっている。公邸料理人がどれだけ世界で活躍をしているか、そのやりがいの大きさ、未来への可能性はそこからもチェックすることができる。


TOMOHFUMI NISHINAGA

1969年、愛知県生まれ。大学で国際政治を学び、卒業後、外交官試験を受け、1992年に外務省に入省。1993年から約2年間に渡り、エジプトでアラビア語を研修後、エジプトの大使館に勤務。一度帰国して日本でODAや中東の仕事に携わり、2008年からアメリカの大使館、2011年からイラクの大使館に勤め、2017年から現ポストに就任。

新卒求人 エフラボ

飲食、就職は、エフラボ。 「エフラボ2020」は飲食業界で働く 「面白さ・魅力・将来性」をフリーマガジン&WEBサイトで就活生の皆さんにお届けしています。 これまでに6500社以上の飲食企業・店舗に採用サポートをしてきた求人媒体「グルメキャリー」を運営するジェイオフィス東京が、 飲食業界を今以上に盛り上げるために運営する、新卒向けのサービスです。

0コメント

  • 1000 / 1000